Points

  • 1990年後半:セールスイネーブルメントの黎明期
  • 2010年代:テクノロジーを活用して注目度アップ
  • 2020年~:顧客接点を持つ部門へ役割が拡張

欧米を中心に急拡大してきたセールスイネーブルメント(Sales Enablement)。営業DXが加速する昨今、日本でもさまざまな企業で注目されはじめていますが、その歴史はどのようなもので、今後どのように展開していくのでしょうか。


黎明期は1990年後半

セールスイネーブルメントの歴史は、いつ頃始まったのでしょうか。文献を当たってみると所説ありますが、本稿では2つほど紹介してみたいと思います。

まずは一つ目。“sales enablement”という言葉は1998年頃にでてきます。この年「salesenablement.com」というドメインが初めて登録され、色々な情報発信がされ始めました。このWebページには、現在でもさまざまなオピニオンリーダーたちの記事が投稿されています。

続いて2つ目。コンサルティングファームのMEREO社、セールスイネーブルベンダーのBigtincanのレポートによるとイネーブルメントのパイオニア的な存在としてJohn Aiello(ジョン・アイエロ)とDrew Larsen(ドリュー・ラーセン)の2人の名前が挙げられています。

時は今からさかのぼること約20年前の1999年、JohnとDrewは以下のような営業課題に対する施策として「セールスパーソンの効率と効果の向上」「変化する顧客に合わせた販売戦略」の必要性を初めて説いた人物として紹介されています。

  • 差別化・バリューメッセージの欠如
  • 顧客やソリューションに関する情報不足
  • 非効率的で曖昧なセールスプロセス

これは、まさに今日のセールスイネーブルメントの根底に流れるコンセプトです。これらのコンセプトは当時、一部のセールス・イネーブルメント・コンサルタントやセールス・トレーナーには受け入れられますが、イネーブルメントが本格的に企業から関心を集めるには2010年頃まで待たなければなりませんでした。


テクノロジーを活用し2010年代に急成長

2007年に誕生したiPhoneをはじめとするモバイルデバイスの拡大によって、顧客がインターネットへより手軽にアクセスし情報を獲得しやすくなる環境が出現しました。今まで営業パーソンが提供していた情報や知識を、顧客自らが検索し、商談前に知っているという状況となったことで、従来のマーケティング・セールス手法に変革が求められるようになります。

こうした環境下、テクノロジーを活用して「顧客との関係構築/成果や行動を管理・可視化」し営業戦略に役立てようとする大きな機運が生まれます。「オートメーション」と「スケール」がキーワードとなる時代の到来です。
「Marketing Automation (MA)」「Account-Based Marketing (ABM)」「オンライン営業支援システム」「Sales Force Automation (SFA)」に代表されるように、データや分析といったサイエンスの手法を取り入れたセールスイネーブルメントは企業から「画期的」と注目を集め一気に成長を遂げていったのです。

ところで、これらセールステクノロジー提供ベンダーとは別に、セールスイネーブルメントの成長を支えた影の立役者がいました。
それは、Forrester、Gartner、IDC、SiriusDecisionsといったデータ分析会社や調査会社、またセールスイネーブルコミュニティの存在です。

Forrester社は2010年は自社レポートにてセールスイネーブルメントの定義を公にし、「セールスイネーブルメント」という言葉を世の中に定着させる大きな役割を担ったと言われています。(実際、Enablement業界では,、この年をEnablementの起源という捉え方もされています。)

続く2013年には、セールスイネーブルメントのコミュニティーであるSales Enablement Societyが産声を上げるなどセールスイネーブルメントは一市場を創り上げ、2005年から2015年にかけてセールスイネーブルメントに関するソリューションを提供するベンダーの数も倍増していきました。
(Bigtincan)


顧客接点を持つ全ての部門を横断する役割へと発展

「調査対象企業のうち61%がセールスイネーブルメント専門組織、あるいはプログラムを設け営業パーソンの育成に取り組んでいる」

これは海外の大手リサーチ機関であるCSO Insightsによる「Sales Enablement Report」で示されている調査結果です。20年の月日をかけ、セールスイネーブルメントは企業にとってコモンセンスになったといっても過言ではないでしょう。

(出典:CSO Insights)

セールスイネーブルメントは、営業の成果創出とそれに必要な行動をとるための知識・スキルの習得を支援する仕組みですが、現在、海外では「営業部門(セールス)」への支援に留まらず顧客接点を持つ部門(Customer-Facing Role)へと対象が横に拡大しています。

カスタマーサクセスイネーブルメント、パートナーイネーブルメント、SEイネーブルメント、Revenue イネーブルメントなど、顧客接点をもつ全ての部門に対して「イネーブルメント」を取り入れる動きが起こっているのです。

これには2つの背景があります。

一つ目はクラウドなどを活用し各部門の活動データが取れるようになってきたことです。
顧客の製品活用率や解約率、オンボーディングのデータ、パートナー企業の営業データ、顧客獲得から案件受注、契約継続までのRevenue全体のデータなど、クラウドなどを活用し各部門の活動データが取得できるようになったことで、成果起点で活動を支援するイネーブルメントの設計が可能となりました。

もう一つは、パンデミックです。コロナがもたらした環境変化は、10年前モバイル革命が顧客行動に変化をもたらした時のように、企業にとって新たな営業課題を突きつけています。顧客に関わる全ての部門へのイネーブルメントの横への広がりは、「顧客視点」「顧客の購買ジャーニー」を今まで以上に意識をしなくてはならなくなった表れといえるでしょう。コロナがもたらした新たな環境を「サバイブ」するための必然的な動きともいえるかもしれません。

1990年代、ドットコムブームの中で誕生したセールスイネーブルメントは、テクノロジーを活用した「オートメーション」「スケール」の時代を経て、「顧客接点部門すべて」に対する支援という役割を担うようになる、といった変遷をたどってきました。

イネーブルメントは「一時の流行」ではなく、企業にとっての「パートナー」として今なお進化を続けているのです。